平成26年3月13日、大阪港湾合同庁舎にて「第3回OSSC安全ダイビング勉強会」が行われました。年に1回の定例的に行われる本勉強会は、新シーズンを迎える前に、昨シーズンの事故を振り返り、スクーバダイビングの安全対策について情報交換を行い、より安全なダイビングの提供を考える機会となっています。
本年の会では以下の通り行われ、勉強会の模様をご報告致します。
(1) 大阪海上保安監部様からの平成25年の事故報告及び過去の事例から見る裁判での判決の争点について
(2) 「バリ島ダイバー漂流事故」から考えるスクーバダイビングの安全対策
(1) 平成25年の事故報告及び過去の事例から見る裁判での判決の争点について
(大阪海上保安監部警備救難課)
平成25年のダイビング事故報告を聞かせて頂きました。大きな特徴として、事故者の半数以上の活動頻度が年に数回のダイバーです。ダイビング機会との確率で考えると、高確率で事故に遭っていることがわかります。事故内容の半数以上が溺れとあり、エア切れのような管理の甘さや、スキルの未熟さが原因であることが推測できます。
さて、今回は過去の事故を例に挙げて、指導者もしくは引率者の裁判での判決の争点を教えて頂きました。事業として指導、引率にあたる者は、万が一事故が起きた場合は「業務上過失致死罪」や「業務上過失致傷罪」の罪に問われます。この判決の争点となるのが、業務として行う際の義務を果たしたか否かです。
講習やファンダイビングで求められる義務とは常時注意義務です。義務を怠って事故が発生した時に、上記の罪が問われることになります。この義務を具体的にいうと、安全対策の実行、ダイバーの技量や環境的なコンディションの適切な判断、緊急事態の対応方法です。指導者の義務が十分に果たされたかどうかが争点となり、刑の重さに影響するとのことでした。
十分な義務を果たすとは一体どれくらいなのでしょうか。これは我々インストラクターにとって答えを出すのが難しい問題です。たとえば、人数比や透明度などの明確な基準が定められていないのも、十分かどうかを測ることの難しさだという意見がありました。基準は定められていないのですが、現場では指導者の判断に全てを任せられている事実があります。指導団体や関連機関が現場に一任しています。ビジネス上の利益追求と安全性は同列に考えるべきではないのでしょうが、このことが選択と判断を狂わせる原因にもなっています。明確な基準が定められれば、無理な要求を断ったり、安全な選択に積極性が生まれるのではないか、と意見が交わされました。
(2) 「バリ島ダイバー漂流事故」から考えるスクーバダイビングの安全対策
今年2月に起きた「バリ島ダイバー漂流事故」を振り返り、スクーバダイビングの安全対策について意見交換を行いました。ここでは責任追及を目的とするのではなく、原因を考えて、それに対する対策案を考えることに集中しました。
事故を起こさない最良の方法は、「潜らない」ことです。事故現場では「潜らない」と言う選択をする材料があったでしょうか。恐らく、ダイビング環境のコンディションやダイバーの技量と体力、インストラクターとボートキャプテンの能力について、その材料は潜んでいたと考えられます。これらの情報を現場で共有するためには相互のコミュニケーションが必要です。しかし、それぞれの複雑な立場は、これを隠してしまう危険性があります。そのため判断を誤まり、事故を招いてしまったのではないかと考えられます。
我々インストラクターにとって注目すべきところは、この場において判断を迫られるのはインストラクターだけなのかということです。特に、日本の報道ではそれを強調する内容が見受けられました。しかし、ダイビングはそれぞれがその責任を負う必要性があります。最終的に決めるのは本人であり、そのために事業者(インストラクターやボートキャプテン)ができる限りの情報を提供し、考えられるリスクを挙げ、ひとつひとつの対策を考慮し、それらを全員が共有し最終判断を行う事で、事故を防ぐことができると思います。
実際の現場では、インストラクターが的確な情報収集を行い、対策案を打ち出すためには経験や知識が必要ですが、それ以前に「認識」があるかどうかが問題視されています。「誰でもできる簡単なダイビング」という風潮の影響は、経験の浅いインストラクターの資質、いわば生死が隣り合わせである現場に居合わせている、またその判断を的確に行う責任を持つことの覚悟をぼやかしてしまうように思われます。このような指導者についた生徒ダイバーは適切な判断能力が養われないままに、自己で責任をとらないダイビングをすることになります。
そこで今回の勉強会で意見一致したことは、今後のダイビングが安全に行われるためには、「教育」が重要であることです。インストラクターを目指す者も、プロではないダイバーも、リスクを正しく知ることができるように、ダイビング環境を整えなければならないということを改めて確認し合う事ができました。
ダイビング教育の環境が整い、全てのダイバーが認識高く活動できると、マーケットはどのように変化するでしょうか。最初に述べた事故確率が高い結果となった、年に数回しかダイビングをしないダイバーが意欲的にダイビングに取り組み、安全を確保できることでより良い付加価値をつけたサービスが提供できるのではないでしょうか。ダイビング事業者側が安価で多くの責任を負わなければならない現状から脱却できることを期待します。
この度の勉強会をご準備下さった関係者の皆さま、ご参加下さった会員の皆様に感謝致します。それぞれのお立場のご意見をお聞きすることができ、そして共有し合う事ができました。今後も様々なテーマに沿って、安全対策を講じる機会を提供頂くことをお願い致します。