須原水紀
平成25年3月13日、大阪港湾合同庁舎にて第2回となる安全ダイビング勉強会が行われ、昨年に引き続き出席させて頂きました。
昨年は第五管区海上保安本部の管轄エリアで発生したダイビング事故が非常に多かった事もあり、勉強会のテーマを「ボートダイビングにおける問題点」とし、ダイビングが行われる現場に焦点を当てたものでした。そして私自身は現地サービスという立場で出席し、ボートダイビングの現場の状況をパネラーという形でお伝えする場面もありました。
今回は、
(1)大阪海上保安監部様からの平成24年の事故報告、
(2)ボートダイビングにおける問題点」をテーマとした討議、
(3)DANジャパン様からの過去の事故の分析報告、の
3つのセクションで行われ、この度の勉強会での模様をご報告したいと思います。
(1) スクーバダイビング事故激増(ベテランダイバーも要注意!)
大阪海上保安監部
平成24年10月末までの事故発生状況の報告を聞かせて頂きました。報告からはスキル不足、病気によるもの、エア切れ、窒素酔い、バディシステムの意識欠乏、超深度下でのダイビングなどで、様々なシチュエーションと原因で事故が起きていることがわかりました。
まず私が注目したのは講習中の事故です。特にこれからダイビングを学ぶ段階である、オープンウォーターダイバーコース中の事故ということは、指導者の管理責任が大きく問われるところです。講習というのはインストラクターのあらゆる判断の積み重ねで進みます。海況、参加者の体調、能力、ストレス、習得度合いなど、様々な判断を瞬時に行い対処していきます。これらが正しく判断され対処していくことで、安全に潜水ができ参加者のスキルの習得が期待できます。では、正しい判断はどのようにして出来るのでしょうか。
実際の現場では、参加者以上に指導者がストレスを抱えている場合があります。経験値による自信の有無も大いにあるでしょうが、一番ストレスを感じるのは予定通りに講習を終わらせて認定しなければ、時間や経費と言ったビジネスに関わる損失が生じる。ことが大きく影響している事は事実です。
現在のレジャーダイビングの講習は「○○日間で取得、○○円」と言った価格競争で、時間と費用の軽負担を売りにする傾向が蔓延り、消費者の選択基準を制限しています。このような選択基準で講習を受ける限り、この条件を満たす講習を余儀なくされます。これでは、参加者が「確実にスキルを習得すること」が優先順位からこぼれ落ちるのも不思議ではありません。そして消費者の求めるダイビング講習の価値が、安全潜水の提供ではなくなるため、指導者側の安全意識や技量が欠落していくのではないでしょうか。
さらにこのような講習を受けて、十分にダイビングのリスクと安全を習得できなかったダイバーは、その後のダイビングで安全に潜水する判断を自分できるでしょうか。「ガイドやインストラクターが安全環境を整えてくれるものだ」という他責的な考え方や、「Cカードを取得した一人前のダイバーだ」という過信は自己管理能力を養うことが出来なくなります。こうして、体調が優れないにもかかわらず無理をしたり、簡単なスキル上のミスでパニックになってしまったり、または技量以上の無謀なダイビングを求めるようになり、潜水事故の可能性を引き上げているように考えられます。
前回の勉強会では、事故の訴訟問題におけるダイビング事業者の責任割合について、法的縛りが厳しくなる可能性を討議しました。しかし、事故は減るどころか増加の一途を辿っています。安全対策は個々の事業者に委ねるのではなく、もはや業界全体として取り組むべき課題となっているようです。現場の努力だけでは拭えないところまで発展している気がしてなりません。
(2) 「ボートダイビングにおける問題点」
現地サービスとしての対応や、これらサービスを利用するプロショップのスタッフの体験を交えてボートダイビングの安全について考えました。
ダイビングボートのタイプは、ダイビング専用ボートであるか、または漁船を利用するか様々な状況があります。それにより設備や装備、操船や人員配備に違いがあるようですが、どちらにも共通することは、安全策としてカレントラインや潜降ラインなどのような装備の充実と、それを利用する価値や方法をブリーフィングで十分に参加者に伝えることの重要性であると、討議の中で話し合われました。
海況や地形などの特性により、装備品をどのように利用するかは、参加者のスキルレベルに応じても変わることです。そして、それぞれのサービスやプロショップで安全の対策に努力を重ねています。しかし、誰しもが「ヒヤッ」とした経験をされているのも事実です。恐らくヒヤッとした経験が全くない指導者はいないと思います。私自身もインストラクションやガイディングを務め、その時々で変化する自然条件とダイバーの反応に、対処の判断を迫られ、判断を誤ったり遅れたりすることで瞬時に危険が迫り、稲妻のように緊張感が走ることがあります。
討議会では会長が次のような例を挙げられました。走描した場合、ゲストをロストした場合、潮流で流された場合などです。会場では、適切な対処をしたおかげで大事に至らなかった経験が発表されました。様々な対処方法がありましたが、まずはこの危機状況に陥らない判断をすることで、更なる安全を遂行できると思います。いわば「想定外」を「想定内」にすることです。あらゆる可能性を事前に想定する「ダイビングはリスクを伴う」という認識が、どれだけ多くの危機を排除するだろうかと考えてみてはいかがでしょうか。
(3) 過去の事故分析の報告
DANジャパン
これまでのダイビング事故を分析し、事故原因の引き金について説明して頂きました。日本での事故原因の傾向などをデータに基づき説明して頂いた上で、事故防止策について考えてさせられました。
ダイビング事故の原因は溺れによる窒息やエア切れによるパニックが挙げられますが、これらの引き金は何だろうか。このような分析で見えてくるものは、病気による息苦しさや意識喪失や、窒素酔いによる思考力低下、技量の未熟さによる誤った行動などでした。分析結果で得られる情報を利用して、より安全なダイビングの実施をしなければならないとのことでした。
私たちはダイビングにはリスクがあることを始めに習いますし、ゲストにも伝えています。そしてリスクを認識してダイビングをすることは、「自己の責任」にあることも伝えなくてはなりません。これは、これからダイビングを楽しもうとする人にとっては、厳しい現実を突きつけられる事かも知れません。しかし、ダイビングの楽しさだけが先行する今日の業界の風潮では、決してダイバーの楽しさを確保できるものとは思えません。憧れの水中世界に飛び込んでみたものの、実際どれだけのストレスを抱えてダイビングをしているか。この事を記すアンケート結果が配布されました。多くのダイバーが自信の無さからくるストレスを抱えて、一か八かのようなダイビングをしているように見えます。
ダイビング事業がビジネスとして成長するためにも、十分なダイビング指導によりダイバーが自立し、安全な環境でダイビングの魅力を伝えるガイディングに集中できることを望みます。どれだけ削ぎ落とした商品を提供するかということよりも、付加価値でより良い商品提供を続けたいと思います。それはダイビングの安全と業界の成長に繋がることと信じています。
経済的背景により特にレジャー産業は厳しい風を受けましたが、ダイビングが質を落とさず健全に楽しめる価値を保ち続けられるよう、継続して勉強会を開催下さる事をお願い致します。この度ご準備、ご参加下さいました皆さまに感謝致します。