「第1回OSS安全ダイビング勉強会」に出席して

能登島ダイビングリゾート

能登島ダイビングリゾート

須原水紀

平成24年2月15日、大阪港湾合同庁舎にて行われたこの度の勉強会に、私ども能登島ダイビングリゾートはOSSC会長の青山氏にお声をかけて頂き常勤スタッフ一同で出席させて頂きました。以前に開催された「救急再圧員」資格取得講習会にも出席させて頂き、減圧症について医学的な見解での安全潜水について学びました。初めは今回が「なぜ25年の実績があるのに第1回なのか」と疑問に思いましたが、出席して講義を聴くと、そこに意味がある事がわかりました。

私自身が今後スタッフ研修やお客様へ伝えたいと思った事を、講義の順番で下記のように羅列させて頂きます。

 

(1) 潜水事故の現状と安全対策 (大阪海上保安監部)

過去の事故の統計を見せて頂きましたが、事故原因は外的要因よりも自己管理不足のような内的要因が大半を占めている事が分りました。知識技能不足、健康状態、自己の過失が主な原因で、これらの事故は状況判断やトレーニングの積み重ねで防ぐ可能性が見えます。また、最近では中高年のダイバーも増えていますが、健康状態が優れないにもかかわらず無理をしてダイビングをすることも原因にあるようです。

私どもではダイビングの受付時には、健康状態を確認する書類の記入とログブックとCカードの確認を徹底しておりますが、ほとんどのダイバーは申告しなければいけない事を知っているにもかかわらず、その必要性を理解していない方が多いです。数十年の経験のあるお客様でも、実際に申告を求められたのは初めてだ、とおっしゃる方もいらっしゃいます。事業者側での健康状態やスキルレベルの確認が徹底されていないのでは、お客様も必要性を理解しないのは当然のことだと思います。

次に、実際に事故が発生し海面にいる事故者捜索の航空機や船艇からの視認性についてのデータを見せて頂きました。波がない状況下で水面に人が漂った場合、シグナルフロートがあれば約400m以内、シグナルフロートがなければ、たった30mだそうです。一方、サバイバルミラーは飛躍的に視認性が高まるというデータをご紹介頂きました。

さて、事故の訴訟問題の事例について講義が発展した時には、公聴者からの質問や意見が飛び交いました。現在の日本でのダイビング事故の責任は、事故当事者ではなく事業者、インストラクター側に求められる現状は言うまでもないですが、さらに厳しい法的縛りが出来る可能性があるようで、現実に判例として出ているそうです。これでは業界が締め付けられるばかりなので、事故を減らす安全対策を個々の事業者に委ねるのではなく、業界全体で取り組む必要が急務である思います。

保安庁の潜水士の訓練では初めの3ヵ月間は水深6m以内で訓練をした後に、ようやく海洋に出られるそうです。それでも大事には至らないにしても、怪我やトラブルは起こっているそうです。このようなことからも分るように、レジャーダイビングのトレーニングについても現状のままで十分かとどうか考えさせられました。

 

(2) ・2001年12月慶良間での事故について (某ダイビングショップ代表)

・冠島減圧症事故について (某ダイビングショップ代表)

それぞれの方が過去にご経験された実際の事故例を基に、問われる過失と事前に防ぐ余地はあったかどうかを、公聴者と共に討議しました。

いずれも死者は出なかったが、事故が起こったのは事実であり、それなりの時間と費用が発生しています。そして何より、関係者の心情的な負担は計り知れないものです。このような当事者からのお話をお聞きすると、法的な事情聴取による情報だけではわからない背景が浮かび上がります。

この2件の事例で挙げられた意見の中で、特に私が注目したのは、お客様とのコミュニケーションの必要性と熟練ダイバーの慢心への警告でした。

接客とは単に顧客を喜ばせるだけではなく、顧客から発せられる情報から様々な想定をしておくことが重要です。しかし、人同士のことなので心理的に十分に対話が出来なかったり、時間的な制約も加わり不十分になることも私の経験でも否めない事実です。これが大なり小なりのトラブルを引き起こす可能性を含んでいる事が分りました。

また、熟練ダイバーは特に若いインストラクターにはアドバイスし難い存在ですが、こうしたダイバーこそ自信がある上に、そのように振舞わざるを得ない心理状況であるようです。その時にインストラクターとしてコミュニケーションをとりストレスを和らげることが出来ると、随分と事故は防げると思いました。なぜなら先の海上保安庁のデータによると、こうした熟練ダイバーの事故は半数以上死亡事故へと繋がっています。これはインストラクターが顧客が申告した経験値を信用し過ぎることと、お客様本人の慢心が起因していると思いました。

 

(3) セーフティダイバー宣言 (関西潜水連盟会長)

Cカード協議会は発行団体数社で組織されたもので、カリキュラム面で最低のスキルレベルを揃え、Cカードの意義をダイバーに喚起する活動をされているそうです。

今回のお話では「ハインリッヒの法則」を用いて、小さなトラブルを減らすことにより、重大事故のリスクを減少することを説明されました。手段としては、インストラクター間、さらにダイビングショップ間の垣根を越えたコミュニケーションを挙げられました。このコミュニケーションで得られた情報をショップ内のスタッフ研修で安全対策を講じ、それをお客様に喚起することを提言されました。まさに、今回の勉強会はそれに当たるものであり、今回得られた情報を持ちかえり、スタッフ間で共有し、お客様に提供できる機会を設けようと思います。

また、潜水医学会の関西地区での普及を述べられました。このような勉強会で、ダイバーや事業者が潜水の安全策を講じ、万が一の事故対応を十分に行うことが出来たとしても、医療機関の受け入れ状況が乏しい現実があるそうです。確かに私どもの北陸地域においても、高気圧障害の対応について積極的な医療機関との協働が見受けられません。医療面での充実も安全なダイビング環境作りには不可欠な課題であると思いました。

 

以上のように、潜水事故の表には出てこない背景を聞かせて頂くことが出来ました。これらの情報は、私たちインストラクターにとって、非常に現実的で現場に適用させやすいものでした。普段の活動の中で同じような経験されているインストラクターは私だけではなかったと思います。いわば、事故になるかどうかは紙一重だということです。ダイビングの安全は個人の自己責任ですが、それを認識できるダイバーを育てるのは各インストラクターやダイビングショップに委ねられているのが現状です。しかし、価格競争やいかに簡単にCカードを取得させるかを事業者間で競うようになってしまっては、以上のような安全対策が成されるはずもありません。ダイビング業界の低迷を成長に繰り上げるには、業界に関連する組織の組織だった改革を行なわなければいけない時期に来ているように感じました。今や各々の事業者に委ねる問題を越えているのではないかと思います。

関係者が膝を突き合わせて、上辺だけでは知り得ない情報交換を行う勉強会を、継続的に行われる事をお願いしたいと思います。

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